ドラマ『イ・サン』は、その壮麗で洗練された物語性によってその名を轟かせた。まさに壮大な傑作時代劇として堂々たる名声を築き上げているのだ。
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その舞台の中心に立つのは、鋭敏な洞察力と抑えがたい情熱を演技に織り込むことで知られるイ・ソジンである。彼は、朝鮮王朝の後期に英明な治世で人々から名君として賛美された22代王のイ・サン(正祖〔チョンジョ〕)の役を繊細さと力強さで演じ上げた。
ドラマの中で展開される壮絶な物語において、幼いイ・サンの父である思悼世子(サドセジャ)は無残にも米びつに閉じ込められて餓死してしまう。この深過ぎる悲劇からイ・サンが立ち上がる姿が、細部まで鮮やかに描かれている。
そして、その苛烈な困難を一つひとつ乗り越えてイ・サンは最終的に名君へと大成するという感動的なサクセス・ストーリーが展開された。まさに、『イ・サン』は視聴者の心を強く揺さぶる、その象徴的なドラマティックな要素が絶妙に組み合わさった時代劇なのだ。
しかしながら、イ・ソジンの卓越した演技と並んでドラマを支えていたのが、愛らしくも強いハン・ジミンが演じたキャラクターのソン・ソンヨンである。その瑞々しさによってヒロインを演じたハン・ジミン。
日本でファン・ミーティングを開催した際には、通常女性が主流である韓流イベントに珍しく、男性ファンが大挙して訪れるという興味深い現象が起きたほどだった。
そんなハン・ジミンが鮮やかに演じるソンヨンは、イ・サンの無邪気な幼なじみという設定で描かれている。しかし、その背後には深遠な歴史の流れが存在している。彼女の演技の元となる実在の人物のモデルは、イ・サンの熱烈な愛情をひとりで受け止めていた宜嬪(ウィビン)・成氏(ソンシ)なのだ。
彼女は、イ・サンとの深い愛情の証として、文孝(ムニョ)世子という名前の王子をもうける。しかし、この希望に満ちた王子は、生まれてからわずか5歳で、悲しくも早すぎる死を迎える。これは、イ・サンが強く心から期待していた未来に対する痛烈な打撃であった。
そうした史実を承知したうえで改めてドラマ『イ・サン』を見ると、感慨もさらに深くなる。
文=大地 康
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