ある日突然、巨額の大金が手に入ったら何をするか。
実際、山口県阿武町が新型コロナの給付金事業で4630万円を誤送金した事件もあったのだから、もし自分にそういうことが起きたら、という想像は誰もが一度はしたことがあるのではないだろうか。
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韓国では最近、そういう想像を具現化したエンタメ作品が次々と登場している。その筆頭に挙げられるのが『イカゲーム』だ。周知のとおり、456億ウォンという巨額の賞金をかけたデスゲームに挑む人々の壮絶な人間模様を描くことで、資本主義を痛烈に風刺したドラマである。おそらくドラマを見た世界中の人が456億ウォンの価値を調べ、あれこれ想像をめぐらせたはずだ。
そしてNetflixで2022年8月12日より配信された『模範家族』も、まさに冒頭の想像から始まる。
主人公のドンハ(チョンウ)は離婚の危機に立たされた一家の大黒柱で、交通違反の罰金すら支払ったことのない模範的な市民だ。そんな彼が偶然、止まっていた車の中で2人の男性の死体と約50億ウォンの札束がぎっしり詰まったカバンを発見する。
普通の人なら警察に通報するか、死体が怖いのでその場を離れるかするだろうが、ドンハは札束に目が釘付けになり、盗みたいという衝動に駆られる。というのも、大学の講師だった彼は心臓病を患う息子の手術費として貯めていたお金を、教授になるための賄賂として使っていたのだ。
教授になればお金は取り返せると思っていたが、よりによって賄賂を渡した教授が性的暴行の疑いで逮捕されたことをニュースで知り、絶望に暮れていたところだった。
家族を守るために、誰よりも切実にお金が欲しかったドンハ。その金は“悪いお金”だと直感するも、彼は結局、大金の入ったカバンを家のガレージに隠し、死体と車は処分することで引き返せない状況に追い込まれていく。
こんな『模範家族』と同線上にあるドラマが、Netflixで2022年9月3日から配信中の『シスターズ』だ。
『ヴィンツェンツォ』のキム・ヒウォン監督が手がけるこちらのドラマも、700億ウォンという謎の大金を目の前にした人の行動を描くのだが、『模範家族』との違いは主人公の三姉妹が貧しい幼少期を過ごしていることだ。
短大卒ゆえに職場では見事にハブられているバツイチの長女。気概のある記者だが実はアルコール依存症の次女。実力だけで美術の名門高校に入ったが、姉たちの期待が重いと感じる末っ子。
それぞれの性格と状況は違えど、三姉妹はお金のせいでプライドが傷ついた経験を幾度となくしている。そんな時、突如現れた700億ウォンは、彼女たちの心をどのように惑わしていくのか……。
激しい競争と貧富の二極化が進むなか、かつてないほど多くの人が社会に不満を抱えたまま生きている。SNSには華やかな生活を見せるインフルエンサーで溢れかえっているし、ビットコインなどの仮想通貨で“億り人”になった人も少なくないようだ。
知らず知らずのうちに絶望や不安、挫折に飲み込まれていく。それは果たして個人の問題か、それとも社会が問題なのか。
『イカゲーム』も『模範家族』も『シスターズ』も、不平等なシステムのなかで苦しめられる個人を通じて社会の不条理に一石を投じているのは確かだ。その一方で、個人が思わず手にした大金ははたして祝福か呪いになるのか、という問いも投げかけている。
想像は自由だが、劇中の主人公たちを振り回す大金があくまでも“他人のもの”であることだけは、肝に銘じておきたい。
文=李 ハナ
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