現在放送中の『六本木クラス』(テレビ朝日系)の影響により、韓国オリジナル版『梨泰院クラス』も再び注目を浴びている。
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ドラマをひと言でまとめると「どん底に突き落とされた青年による華麗なる復讐劇」。主人公パク・セロイ(演者パク・ソジュン)は父親の死を隠蔽し、自分をどん底に突き落とした大手飲食チェーン・長家の会長チャン・デヒ(演者ユ・ジェミョン)を土下座させるという目標を果たす。
(※以下、『梨泰院クラス』のネタバレがあります)
中卒で前科持ち、天涯孤独。世間一般でいえば「負け組」に属するかもしれないが、セロイは底なしの魅力を持つキャラクターだ。正義感が強く、情に厚く、自分の信念を貫き通す。特に注目すべきは宿敵のチャン会長と対比をなすリーダーシップだ。居酒屋「タンバム」の経営者となったセロイが見せたのは、若者の、若者による、若者のための理想のリーダー像だった。
彼がよいリーダーであることを示した最初のエピソードは、高校を卒業したばかりのチョ・イソ(演者キム・ダミ)をタンバムのマネージャーに採用したことだろう。SNSの人気インフルエンサーだったイソは、苦戦が続いていたタンバムの改善すべき点をビシバシ指摘する。セロイは年下の彼女にも学ぶ姿勢を持ち、決して威張らなかった。イソの年齢や履歴はさておき、能力を評価したおかげで自分を信じてついてきてくれる”諸葛亮”のような助言者をゲットする。
ただ、その助言者の提言を盲目的に受け入れるほど、セロイは主体性がないわけでもない。
例えば、料理長マ・ヒョニ(演者イ・ジュヨン)が実はトランスジェンダーで、料理の腕もイマイチであることが問題になった場面。イソはヒョニを「クビにして」とセロイに提案した。このままじゃお店は「すぐに潰れる」と。
ところがセロイがとった行動はみんなの予想を超えるものだった。普段の倍の金額の給料をヒョニに渡して「2倍努力しろ」と言う。また、英語ができると思って採用した接客スタッフのトニー(演者クリス・ライアン)が、実は英語が喋れないとわかった時も「英語を勉強しろ」と言う。
それは決して命令や強要ではない。「タンバムが好き」という2人の意向を聞いたうえでの提案だった。お店にふさわしくない人間を切り捨てるのではなく、お店にふさわしい人間になれるよう応援する。迎え入れた仲間への信頼と包容力、勇気がなければ、とてもじゃないができないことだろう。人を大切にするセロイの強い信念が、人を動かすリーダーシップへと化したのだ。
その信念は、タンバムが移転の危機を迎えた時も発揮された。
梨泰院の街からタンバムを追い出そうと、ビルの新しいオーナーになったチャン会長。そのことがみんなに知られると、タンバムで働いていたチャン会長の次男・グンス(演者キム・ドンヒ)は負い目を感じる。その結果、イソに背中を押されるかたちで、タンバムを辞めるのを条件に父親に取引するという話になった。
商売とはもともと利益を追求することで、グンスが辞めれば万事オーケーだというイソ。しかし、その意見に激怒したセロイはイソがつけていたマネージャーの名札をもぎ取ってこう言い放つ。
「お前はマネージャー失格だ。それが商売なら、やらない」
ビジネスの世界で次々とやってくる危機をどう乗り越えるか。セロイは実益よりも仲間との共闘を選んだ。もちろん、彼には長家の株を売って投資金を回収し、ビルを買うという”プランB”があったが、それも彼にとっては長年の計画が狂う難しい決断だったはず。ブレない信念を持つセロイのカリスマ性は、人を惹きつける魅力がある。もし自分がグンスなら、一生セロイについて行こうと思うに違いない。
現実世界にはセロイのような人は存在しないかもしれない。あくまでもドラマのキャラクターにすぎないことを、視聴者は知っている。しかし、彼が示したリーダーの在り方は単なるファンタジーではない。多くの若者が待ち望んでいる現実だ。
文=李 ハナ
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