今やワールドワイドな人気を誇る韓国発のアーティストグループ「BTS」の突然の発表が、世界中に衝撃を走らせている。
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2022年6月14日、BTSはデビュー9周年を祝うファンイベント「2022 BTS FESTA」のなかでグループ活動の一時休止を電撃発表。そこにはメンバーたちに迫りくる兵役問題も関係しているのだろうが、「ずっと何かを作り出さなければならず、成長するための時間がない」「方向性を見失った」などというメンバーらのコメントからは、トップアーティストとして忙しく走り続けてきた彼らの苦悩と葛藤も感じられた。
この電撃発表の数日前は最新アルバム『Proof』が発売に。2014年のデビューから最新曲まで数多くの名曲が3枚組のCDに網羅されたこのアルバムは、BTSの過去と現在、未来が共存する大作として発売前から注目を集め、韓国では発売初日に約150万枚の売り上げを記録し、日本では初日46.4万枚で「オリコンデイリーアルバムランキング」(6月13日付)1位を獲得したばかりだった。
まさに最全盛期を享受していたなかでの状況を考えると、BTSの活動休止はK-POP業界に大きな波紋を投じることになりそうだ。
何しろK-POP産業においてBTSがもたらした影響力は実に巨大なのだ。
アメリカの公共ラジオ放送局『NPR(National Public Radio)』の調べによると、BTSが生み出す経済効果は年間約50億ドルという。これはアメリカの名目GDPの0.5%に該当する数字だ。同局による番組『BTS:経済を動かすバンド』ではBTSを「経済の大きな動力」と表現し、「彼らが韓国の経済指標を変動させている」という分析もあった。
韓国の有力財閥・現代(ヒョンデ)グループ系列のシンクタンクである現代経済研究院が2018年に発表した報告書「BTSの経済的効果」でも、BTSの生産誘発効果は年間5兆5000億ウォン(約5642億円)を超えると分析されていた。
今のような人気が維持されれば、デビューから2023年までの経済的効果は56兆1600億ウォン(約5兆7615億円)に及ぶとも予想。この額は2018年平昌オリンピックの経済効果(約4兆2678億円)を上回る規模なのだから、BTSパワーの凄さがわかるだろう。
もちろん、BTSを世に送り出したBig Hitエンターテインメントも急成長した。同社は2020年10月、KOSPI市場に上場後、社名を「HYBE(ハイブ)」に変更。「音楽に基づいた世界最高のエンターテインメント・ライフスタイル・プラットフォーム企業」という遠大なビジョンを掲げた。BTSの世界的活躍とも相まって急成長を見せ、2021年の売上額は創業以来最大となる1兆2577億ウォン(約1308億円)を記録しているほどなのだ。
そんなHYBEが近年取り組んできたのが「IP事業」である。
HYBEは数年前から、仮にBTSが兵役で音楽活動を休止することになっても永続的に収益を創出するために、IP(知的財産権、Intellecual Property)を用いた事業を着々と進めてきた。
2019年の会社説明会で発表したその事業内容とは、BTSのブランドや世界観をさまざまな媒体へ拡大させ、トランスメディア(メディア間の境界を越え、結合・融合させる現象)を実現するということ。要するに、BTSのキャラクター化、ゲーム化、小説化、ウェブ漫画化、ドラマ化、NFT化といった、ディズニー式ビジネスを展開するというのだ。
熱心なファンでもない限りそれらのコンテンツをひとつひとつ丹念に追うのは難しいかもしれないが、日本には一般の人でも分かりやすい成功例が存在する。LINEを使っている人なら誰もが一度は目にしたはずの、「BT21」がそれだ。
BTSが直接デザインに参加したこともあって、LINE FRIENDSのなかでも圧倒的な人気を誇るキャラクターである「BT21」。2019年にはLINE FRIENDSの売上のうちBT21の割合が30%を超えており、流通業界の売上が激減したコロナ禍でもLINE FRIENDSは黒字を記録するとともに、BT21のようなIP関連取引量が初めて1兆ウォン(約1025億円)を達成した。
このような莫大な経済的効果のほかにも、「ビルボード・ミュージック・アワード」「アメリカン・ミュージック・アワード」での受賞や、ギネス世界記録の殿堂入りなど、K-POPアーティストとして歴史を塗り替えてきたBTS。活動休止の間にも彼らがさまざまな分野に与える影響は決して少なくないはずだが、果たしてどうなるか。
文=李 ハナ
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