韓国のテレビ局において、時代劇は非常に重要なコンテンツである。
韓国の人は概して歴史が好きで、歴史を題材にしたドラマは視聴率も他のジャンルより高くなるケースが多い。
それだけに、各テレビ局は時代劇の制作に力を入れており、そういう良好な環境から傑作がたくさん生まれている。
しかし、テレビ放送の過去を振り返ってみると、かつては時代劇の内容に視聴者から批判的な意見が多数寄せられていた。特に「あまりにマンネリだ」と指摘する声が1980年代から1990年代前半にかけてとても多かった。
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そんな状況を一変させたのが『朝鮮王朝実録』のハングル版の誕生であった。
『朝鮮王朝実録』は、朝鮮王朝の出来事を毎日細かく記録した文書で構成されており、朝鮮王朝で起こった出来事を詳しく知ることができる絶対不可欠な歴史書であった。
しかし、漢文で書かれている点が現代の韓国人にとってネックだった。専門的に漢文を学んだ人でなければ、『朝鮮王朝実録』を読むことができなかったのである。
そんな事情もハングル版の登場で変わった。韓国政府は長い時間をかけて『朝鮮王朝実録』のハングル版に取り組み、それがついに完成したのが1994年であった。これによって、一般の人が気軽に『朝鮮王朝実録』の記述に慣れ親しむことができるようになった。
この快挙は、時代劇を制作する人にとっても大変な朗報だ。なぜなら、それまで漢文でわからなかった記述がハングルで手に取るようにわかるようになったのだから……。
こうして、『朝鮮王朝実録』のハングル版は、朝鮮王朝の出来事を時代劇で細かく描くときに最適のテキストになった。
そんな追い風の中で制作されたのが『龍の涙』だった。
このドラマは『朝鮮王朝実録』のハングル版の影響を決定的に受けながら、1996年11月24日からKBSで放送が開始された。朝鮮王朝の建国当初の激動期を歴史に沿って細かく描き、骨太な内容となっていた。
それまでの時代劇と比べても、史実を生かした展開が視聴者から圧倒的に支持された。視聴率も49・6%に達し、『龍の涙』はまさに国民的な時代劇と称された。
以後、韓国では史実に基づいた実録時代劇が相次いで制作されるようになっていくが、『龍の涙』はその先駆けとなった作品である。そういう意味でも、韓国時代劇の歴史を変えた傑作だった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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