イ・ヨンエが主演した『宮廷女官 チャングムの誓い』では、中宗(チュンジョン)の正妻であった文定(ムンジョン)王后を演じたのはパク・ジョンスクだった。
このドラマで文定王后は、特に問題を起こすこともなく、ごく常識的な女性として描かれていた。決して悪女ではなく、むしろ善人と言えるところもあった。
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しかし、同じくイ・ビョンフン監督が制作した『オクニョ 運命の女(ひと)』では、登場する文定王后の性格がガラリと変わっていた。
とにかく、彼女はどうしようもない悪女として描かれていて、欲深くわがままな女性になっていた。しかも、悪役が多いキム・ヘスクが本当に憎たらしく演じていて、視聴者の中には嫌悪を感じた人もいただろう。
両作品ともイ・ビョンフン監督がメガホンを取っているのに、なぜこんなに文定王后のキャラが違ったのだろうか。
それは、悪役の比重が変わったということだ。
『宮廷女官 チャングムの誓い』では、チャングムの最大のカタキ役として出てきたのは、キョン・ミリが演じたチェ尚宮(サングン)だった。この女性はチャングムを徹底的に邪魔し、悪事のかぎりを尽くしていた。
このチェ尚宮が悪役を一手に引き受けていたので、その他の配役を悪役にする必要がなかった。つまり、チェ尚宮に悪事を集中させたので、文定王后を悪くしなくてもよくなったのだ。それによって、文定王后は王妃として穏やかな役を受け持つことができた。
しかし、『オクニョ 運命の女(ひと)』では状況がまったく変わった。
イ・ビョンフン監督というのは主人公と対比させるために悪役を辛辣に描く人なのだが、『宮廷女官 チャングムの誓い』でチェ尚宮が受け持った悪役を今度は『オクニョ 運命の女(ひと)』で文定王后が引き受けることになった。
しかも、史実でも文定王后は何かと問題を起こした「いわくつきの人物」であった。それだけに、イ・ビョンフン監督も今度こそ容赦がなかった。この王妃を徹底的にワル者に仕立て上げて、悪役で名を馳せたキム・ヘスクをキャスティングしたのである。
同じ監督が同じ歴史人物を扱っても、ドラマによって描き方がまるで違う。そのことを『宮廷女官 チャングムの誓い』と『オクニョ 運命の女(ひと)』が如実に示したのだ。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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