日本でも非常に人気が高い韓国時代劇『トンイ』で、チャン・ヒビン（張禧嬪）を演じたのはイ・ソヨンだった。
最初にキャスティングを見たときは意外だった。「果たして大丈夫なのかな」という心配があったのも事実だ。
なにしろ、韓国時代劇でチャン・ヒビンといえば断トツの注目キャラクターだからだ。それだけに、今まではキム・ヘスを始めとしてそうそうたるトップ女優が演じてきた。
イ・ソヨンは、ハン・ヒョジュと共演した『春のワルツ』で重要な役を演じたとはいえ、女優としての実績が十分だったとは言い難かった。まだ成長途上の女優だと思われていた。
【写真】『トンイ』の嫌われ役イ・ソヨン、ハン・ヒョジュとの“深い縁”
それでも時代劇の巨匠とも言われるイ・ビョンフン監督は、あえてイ・ソヨンを抜擢した。チャン・ヒビンが持つ既存のイメージを大幅に変えたいと思ったからだ。
それまでのチャン・ヒビンというと、感情的で野望をむき出しにするという描き方をされていた。
しかし、『トンイ』でのチャン・ヒビンは理知的で感情を抑える場面が多かった。
そういう役を演じるには、やはりクールビューティーが合う女優がふさわしい。その点では、イ・ソヨンは申し分なかった。
彼女はチャン・ヒビンを演じるにあたって、当初は役作りを熱心に行なうつもりだった。
しかし、イ・ビョンフン監督に止められた。「最初から白紙の状態で演技に臨んでほしい」と要請されたのだ。こういう注文は俳優としても大変難しい。白紙と言われれば言われるほど迷うものなのだ。
しかし、イ・ソヨンはイ・ビョンフン監督が感心するほどチャン・ヒビンのイメージを新しく作り変えていた。
こうして『トンイ』では、チャン・ヒビンが論理的で人の性格をよく把握している女性として描かれていた。それは、史実のチャン・ヒビンとも合っていたのではないかと思われる。
それまでのドラマでは、チャン・ヒビンが欲望にまみれた悪女として表現されることが多かったが、歴史書に書かれているチャン・ヒビンの記録を詳しく調べると、彼女は悪女とは言えない部分も多かった。
結果的に、王妃に出世する過程が悪く書かれすぎていたのだ。しかし、『トンイ』ではそのイメージを変えるキャラクターになっていた。
それがうまく成功したのも、イ・ソヨンの計算された冷静な演技があったからだ。イ・ビョンフン監督がイ・ソヨンを起用したことは大当たりだったと言える。
文＝康 熙奉(カン・ヒボン)
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