Disney+の独占配信ドラマ『パイン ならず者たち』は、1970年代の韓国を舞台に、沈没船に眠る財宝を巡って蠢くアウトローたちの姿を描くクライム・アクションである。この作品の中で、ひときわ存在感を放つのがイ・ドンフィだ。
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イ・ドンフィといえば、『恋のスケッチ~応答せよ1988~』で演じた情報通の高校生リュ・ドンリョンを演じて広く知られるようになったが、彼の真骨頂はそこにとどまらない。『アントラージュ』ではヨンビンの友人コブクに扮し、『自己発光オフィス』ではハウライン社マーケティング部契約社員ト・ギテクを演じた。
さらに『サバイバー:60日間の大統領』では707特殊部隊員で伍長のチョ・ソンジュとして重厚な演技も披露するなど、幅広い役柄を自在にこなしてきた。そんなイ・ドンフィが『パイン ならず者たち』で原則主義の警察官シム・ホンギを演じている。
この魅力は、過去の出演作でも随所に表れていた。『カジノ』ではムシクの右腕であるカジノエージェントとして冷徹な交渉を見せつけ、『グリッチ』では恋人役として不条理な現実に翻弄される青年の揺れる心情を繊細に描いた。また、『SF8~夢見た未来~』では、盲信や科学に対する人間の葛藤を表現し、俳優としての振り幅を広げている。
『パイン ならず者たち』では、詐欺師や盗掘師、権力者たちが一堂に会し、謎の沈没船とそこに眠る財宝を巡って激しい駆け引きを繰り広げる。イ・ドンフィが演じる男もその渦中にあって他者との関係性のなかで立ち回っていく。
チョン会長の信頼を勝ち取るために策略を巡らせる者、金だけを求めて動く者、そして突如現れる強力なライバルたち。誰が味方で誰が敵か分からぬ中で、イ・ドンフィのキャラクターは表情ひとつ、台詞の一言で緊張と安堵を同時に呼び起こす。
イ・ドンフィの魅力とは、その間の演技にある。大仰な表現を避け、沈黙の中に感情を潜ませるその芝居は、韓国ドラマ界でも異彩を放つ存在となっている。
『パイン ならず者たち』でもまた、欲望に突き動かされる人間たちの中にあって、どこか哀しみとユーモアを抱えた彼の存在は、作品に深みと奥行きを加えている。
欲望と裏切り、そして最後に残るのは何なのか。その答えを探る旅の中で、イ・ドンフィという俳優が放つ陰影に富んだ光は、きっと見る者の心に残るだろう。
文=大地 康
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