Disney+で配信されている韓国ドラマ『ナインパズル』で、俳優ソン・ソックが演じる刑事キム・キム・ハンセムは、物語の核心を鋭く貫く存在である。過去と現在、真実と疑念が交錯するこの作品において、彼の演技は観る者の感情を深く揺さぶる。
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キム・ハンセムというキャラクターは、単なる“優秀な刑事”では片付けられない多面性を秘めている。10年前のある殺人事件で、彼は女子高生だったユン・イナを容疑者として追及した。
当時、遺体の第一発見者となった彼女は衝撃によって記憶を失い、真相は闇の中に葬られたままになっていた。年月が流れ、イナはプロファイラーとして現場に戻ってくる。だが、キム・ハンセムは彼女を過去の容疑者として見限ることなく、なおもその存在を警戒し続ける。
この人物の複雑な心理を、ソン・ソックは表情の陰影だけで描き出す。感情を大きく露わにすることはないが、その沈黙や視線の揺らぎの中に、彼が背負ってきた過去の重みが静かに滲み出る。
ときに無愛想で、他者との距離を置く彼の態度は、職務への忠実さゆえとも、あるいはトラウマを抱えた防衛反応とも読み取れる。
ソン・ソックが演じるキム・ハンセムの魅力は、その“曖昧さ”にある。善か悪か、正義か執着か。観る者に判断を委ねるような曖昧な立ち位置が、ドラマ全体に緊張感を生み出している。
1つの表情、1つのセリフに、二重三重の意味を込める演技は、ソン・ソックの技量を如実に物語っている。
キム・ハンセムの行動はしばしば常識を逸脱しており、周囲の捜査官たちを戸惑わせる。しかし、それもまた彼の“真実への執念”の現れである。誰もが見落とすような細部にこだわり、時に命令に背いてまでも独自に動く彼の姿は、危うくも強烈な魅力を放つ。
『ナインパズル』におけるソン・ソックの存在感は、他のどの登場人物よりも際立っている。彼が登場するシーンには、常に張りつめた空気が流れ、そこに視聴者は引き込まれていく。
彼の一言一言が、ストーリーを予測不能な方向へと導く“パズルのピース”であり、物語全体の雰囲気を支配しているといっても過言ではない。
過去作で見せた柔らかく人間味あふれる演技とは打って変わって、『ナインパズル』では冷徹かつ不可解な男を演じているソン・ソック。その冷たいまなざしの奥に、傷ついた心と揺るぎない信念を垣間見せる演技は、彼の俳優としての新境地といえる。
この作品を通じて、ソン・ソックは“信じるべきか疑うべきか”という視点を観る者に突きつける。キム・ハンセムの行動の裏にある動機や葛藤を読み解くことは、そのままドラマの核心に迫る手がかりでもある。
『ナインパズル』は、ソン・ソックという俳優の現在を象徴する作品であり、その演技の奥深さと可能性を改めて証明する舞台である。彼が紡ぐキャラクターの奥行きは、物語のスリルと感情の深さを両立させ、視聴者を最後まで惹きつけてやまない。
文=大地 康
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