「もし、別の人生を歩んでいたら、自分はどうなっていただろうか」と誰もが一度は思い浮かべたことがあるのではないか。
韓国ドラマ『未知のソウル』は、そうした普遍的な問いに対して、幻想や逃避ではなく、確かな現実感と繊細な感情によって応える一作である。
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Netflixで現在配信中の本作は、「入れ替わり」という題材を用いながら、現代を生きる若者たちの孤独と葛藤、そして“心の再出発”を静かに、しかし力強く描き出している。
脚本を手がけたのは、『五月の青春』で、歴史の荒波に翻弄された若者の愛と友情を鮮烈に描いたイ・ガン。『未知のソウル』では舞台を現代に移し、デジタルと競争が支配する都市社会のなかで、個としての存在価値を見失いかけた若者たちの“もうひとつの青春”に光を当てる。
物語の主軸を担うのは、双子の姉妹ユ・ミジとユ・ミレだ。外見はそっくりだが、性格も生活環境も対照的である。姉のミレはソウルの大手企業に勤めるエリートだが、完璧さを求められる日々のなかで心が摩耗し、限界寸前にある。
一方、妹のミジは田舎町のトゥソン里で気ままな生活を送っているが、定職もなく村の雑用係のような立場から周囲の冷ややかな視線を浴びている。しかし彼女には、姉を誰よりも思いやる温かなまなざしがあった。
ある日、限界に達したミレの姿を目の当たりにしたミジは、「しばらく人生を交換しよう」と提案する。それは一時的な逃避のつもりだった。
だが、2人の入れ替わりは、次第に深い変化をもたらしていく。外側の仮面をかぶることで、初めて見えてくる自分の輪郭。姉妹は、他人として生きる日々のなかで、それぞれの人生に欠けていたものと出会うことになる。
本作を特別なものにしているのは、主演パク・ボヨンの圧巻の演技力である。彼女はユ・ミジとユ・ミレ、さらにミレになったミジとミジになったミレという4つの役割を見事に演じ分けている。
しぐさ、声のトーン、視線の動きまで巧みに使い分け、観る者に「今、誰を見ているのか?」という問いを常に意識させる。
また、彼女たちの入れ替わりに絡んでいく男性キャラクターにも注目したい。ミジの高校の同級生で、ソウルで再会するイ・ホス(演者パク・ジニョン)は、姉妹の過去に深く関わる存在として再び彼女たちの人生に足を踏み入れる。
一方、トゥソン里で出会うチャンファ農園農場主ハン・セジン(演者リュ・ギョンス)は、穏やかな微笑みの裏に過去の影を抱えており、“ミレとして生きるミジ”との出会いを通じて、彼自身の再生にもつながっていく。
『未知のソウル』は、日々の生活に疲れ、少し立ち止まりたくなったときにこそ観てほしいドラマである。他人の人生を演じるという偽りのなかでこそ、自分自身の本質と向き合える。そんな逆説的な希望が、物語の隅々にまで息づいている。
静かなトーンのなかに、人生への鋭い洞察と優しいまなざしが詰まった本作は、観る者にそっと寄り添いながら、別の人生を通していまの自分に光を当ててくれる貴重な作品である。
文=大地 康
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