テレビ東京で放送された『ノクドゥ伝~花に降る月明り~』は終わったが、実在した主要人物の人生を振り返るシリーズの3回目に王妃を取り上げてみよう。
光海君(クァンヘグン)の妻であった王妃は、ドラマの後半に存在感をグッと増した。主役のチャン・ドンユンが演じたノクドゥの実母であったことが明らかになったからだ。
彼女は我が子のノクドゥを本当に愛した優しい母だった。実際にはどういう女性だったのだろうか。
王妃は歴史的には柳氏(ユシ)として知られる。
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彼女は1576年に生まれた。夫の光海君より1歳下であった。
子供は1人だけ産んでおり、それが世子(セジャ)であった。
もちろん、柳氏は我が子を心から愛し、将来の国王になる息子を立派に育てた。
そんな柳氏の人生が暗転したのは1623年のことだった。光海君が綾陽君(ヌンヤングン)の起こしたクーデターによって王位を追われたのだ。そして、綾陽君は16代王の仁祖(インジョ)として即位した。
反対に、光海君夫婦と世子夫婦は江華島(カンファド)に流罪となった。
仕方なく、4人は船で江華島に向かった。その船中で柳氏はとんでもない行動を取った。なんと、夫に対して一家で自害することを迫ったのだ。
「これ以上の屈辱はありません。いっそ、みんなで死にましょう」
そう言って、柳氏は船から身投げする覚悟を見せた。彼女は自尊心を極端に傷つけられたことに耐えられなかったのだ。
しかし、光海君が妻の言葉を拒絶した。彼は島流しにあっても生きようとしたのだ。
こうして、柳氏の願いはかなわず、彼女もひとまず江華島で暮らした。
ただし、平穏な日々は訪れなかった。世子夫婦は島からの逃亡をはかって捕まり、自害に追い込まれてしまった。
その悲劇によって柳氏は生きる希望を失い、彼女も息子の後を追って自害した。
享年は47歳であった。彼女の死後も光海君は18年間生き続けた。
『ノクドゥ伝~花に降る月明り~』では、王妃もノクドゥという息子を得て、幸せな雰囲気を漂わせていた。しかし、史実はまるで逆であったと言わざるをえない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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