近年、日本国内でも人気が高まりひとつのジャンルとして定着しつつある韓国文学(K文学)や韓国エッセイ。おしゃれなデザインやかわいらしい色合い・イラストの装丁の作品も多く、書店でも目を引く存在ではないだろうか。
実は、韓国語学習者&韓日翻訳者でもある筆者。「ぜひ、みんなにも読んでもらいたい!」と個人的に思っている作品たちをレビューしていきたいと思う。
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第一回目の今回は、韓国国内で日韓翻訳家・エッセイストとして活躍するクォン・ナミさんのエッセイ『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』『翻訳に生きて死んで 日本文学翻訳家の波乱万丈ライフ』の2冊をご紹介。
最近では、英日翻訳家でエッセイストである村井理子さんとの往復書簡や、暮しの手帖での連載もスタート。主な訳書に村上春樹『村上T 僕の愛したTシャツたち』『シドニー!』『パン屋再襲撃』『村上ラヂオ』、小川糸『食堂かたつむり』『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』、恩田陸『夜のピクニック』、群ようこ『かもめ食堂』、天童荒太『悼む人』、益田ミリ『僕の姉ちゃん』シリーズ、角田光代『紙の月』、三浦しをん『舟を編む』、朝井リョウ『何者』、東野圭吾『宿命』などがある。
『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活 』
◆基本情報
原題:혼자여서 좋은 직업 두 언어로 살아가는 번역가의 삶
出版社:平凡社
出版年月:2023/01
著者:クォン・ナミ
翻訳: 藤田麗子(フジタ・レイコ)
◆概要
翻訳家としてのキャリアや日常生活、翻訳業界の裏話などがユーモアを交えて、軽やかに綴られているエッセイ。著者自身の性格や生活スタイルについても触れている。翻訳という仕事の魅力や、一人で働くことの楽しさが詰まった一冊。
◆レビュー
韓日翻訳を勉強している身として、翻訳家さんが書いているエッセイはやはり読みたくなってしまう。韓国で何百冊も日本文学を翻訳し、エッセイストとしても活躍している方のエッセイ邦訳版が発売されるとの情報を耳にし、手にしたのが『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』だ。
膨大な量の日本文学をバリバリ翻訳されている、私にとっては大先生。非常に、とても、ものすごく素晴らしい方であることには間違いないのに、エッセイの中には肩肘張らず等身大で翻訳に臨んでいるナミさんの姿と日常が綴られているのが印象的(まだまだひよっこの私が言うにはおこがましい気もするが…)。そして、ナミさん、もっともっと「自分はすごいんです!」と自慢してください、とも思った。
また、どの一節が、というよりはエッセイ全体を通して、ナミさんの実直さや軽やかさが伝わってくる。さすが、翻訳家だなと唸る表現のオンパレードだ。「自発的な外出自粛タイプ」「骨たちがストライキを起こした大変だ」などなど…。どうしたら、クスっと笑ってしまう、秀逸な表現が出てくるのだろうか。一度でいいから文を紡いでいる最中のナミさんの頭の中を覗き見してみたい。
『翻訳に生きて死んで 日本文学翻訳家の波乱万丈ライフ 』
◆基本情報
原題:번역에 살고 죽고 20년차 번역가의 솔직발랄한 이야기
出版社:平凡社
出版年月:2024/03
著者:クォン・ナミ
翻訳: 藤田麗子(フジタ・レイコ)
◆概要
著者が翻訳の世界に足を踏み入れたきっかけや、翻訳という仕事をしていくうえでの苦労、そして翻訳業界のリアルな内幕を中心に綴ったエッセイ。
例えば、翻訳料金の交渉や印税制度、編集者との関係構築、方言の翻訳方法など、翻訳家ならではの体験が描かれている。さらに、翻訳家を目指す人へのアドバイスや翻訳全般に関するQ&Aも収録。
◆レビュー
『ひとりだから楽しい仕事 日本と韓国、ふたつの言語を生きる翻訳家の生活』が日常を中心に綴ったエッセイだとすれば、『翻訳に生きて死んで 日本文学翻訳家の波乱万丈ライフ』は、ナミさんが翻訳を生業とするまでの道のりや、実際の翻訳業について中心に書かれている。
翻訳界隈に片足をつっこんでいる人間であれば、気になるあれこれ。「翻訳家を目指す人が進むべき学科」「外国語さえ得意であれば翻訳ができるのか?」「留学はすべき?」といったことから、本当は知りたいけれど、なかなか直接は聞けないお金に関することまで。ここまで書いちゃって大丈夫なんですか?!といった内容まで惜しみなく伝えてくださっている。
さらには、翻訳家としてキャリアを積み上げていくため、ナミさんが仕事を獲得するためにやってきたこと。そして、翻訳をする際に誰しも通るであろう「直訳と意訳」「方言の訳し方」についても触れている。翻訳家を目指す人はもちろんのこと、ひとつの職業として翻訳家はどのような仕事をしているのだろうか、と気になる人も興味をそそられるのではないだろうか。
実は以前、クォン・ナミさんが来日した際に東京神保町のチェッコリで行われたトークイベントに参加したことがある。「まだ一冊しか翻訳書を出せていないんですけど、韓日翻訳をしてて…」とご挨拶と一緒に名刺をお渡ししたとき、「訳すのが難しい韓国語に出会ったら、ぜひ私に相談してね!」とナミさんの名刺をいただいたのが記憶に残っている。
月並みの表現だが、本当にすごい人はまったく偉ぶらない。同じ目線で接してくれる。いつか、そんなナミさんのような人間、そして翻訳家になりたいと決意を新たにした日でもあり、エッセイだ。
文=豊田 祥子
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