Netflixで配信中のドラマ『テプン商事』は、1997年という激動のソウルを舞台に、崩壊寸前の経済と、なおも人を信じて生き抜こうとする人々の姿を描いた群像劇である。
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IMF危機という暗雲の中、倒産と失業が連日のように報じられ、希望が見えにくかった時代にあって、登場人物たちはそれでも明日を信じ、互いの温もりに寄り添いながら生きている。その息づかいを丁寧にすくい上げる本作は、冷たい現実の中に灯る小さな光のような物語である。
主人公カン・テプン(演者イ・ジュノ)は、父が築いた貿易会社を守るために全身全霊で奮闘する青年である。華やかな夢ではなく、汗と涙にまみれた現実の戦場で、彼は誠実さを武器に立ち向かう。
その姿には、無骨だが真っすぐな人間の強さがにじみ、見る者の胸を静かに打つ。彼の隣で会社を支えるオ・ミソン(演者キム・ミンハ)は、苦難の中でも柔らかな心を失わない女性であり、作品全体の温度を保つ存在だ。
2人の関係は単なる恋愛ではなく、共に時代を越える同志の絆であり、信頼という言葉の本質を静かに語りかけてくる。
 
その世界の中で、ひときわ柔らかく、しかし確かな印象を残すのがクォン・ハンソル演じるオ・ミホである。航空運航科を卒業したばかりの21歳。彼女は未来の不透明さに怯えながらも、家族を想い、自分の足で歩こうとする若者の象徴だ。
彼女の笑顔は陽だまりのようにあたたかく、仕草の1つ1つに誠実な意志が宿る。姉ミソンを支え、励まし、時に涙を見せるその素直な感情の揺れが、視聴者の心を優しく包み込む。
クォン・ハンソルは、派手な演出に頼らず、繊細な感情の襞を表現する稀有な俳優である。
『先輩、その口紅塗らないで』ではオ・ウォルスン(演者イ・ジヒョン)が店主を務めるカフェのバイトであるト・イェジンを、『有益な詐欺』では詐欺の被害者ヨン・ホジョンとして登場した。
さらに『財閥×刑事』ではクォン・ドジュン(演者パク・セジュン)の恋人イ・イェソンに扮し、『魔女~君を救うメソッド』ではパク・ミジョン(演者ノ・ジョンウィ)のクラスメートのソ・ダウンを演じた。
クォン・ハンソルの演技は静かで自然体である。派手さはないが、心に穏やかな余韻を残す。彼女が見せるさりげない表情や仕草には誠実さがあり、オ・ミホという人物の温かさと強さを丁寧に伝えている。その控えめな存在感が、『テプン商事』の世界に確かな深みを与えている。
文=大地 康
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