傑作時代劇『トンイ』にハン・ヒョジュが主演していたのは2010年だ。当時、彼女を取り上げた記事を読んでいると、“天然美女”という表現が多かった。この言い方は、メイクの鮮やかさに頼らない自然の美しさを持った女性によく使われていた。まさに、褒め言葉の最たるものだった。
それほどの人気を誇っていたハン・ヒョジュ。“時代劇の巨匠”イ・ビョンフン監督と組んだことはタイムリーだった。傑作時代劇の主人公を演じることは、韓国でも超一流を意味していたのだ。
しかも、演じた淑嬪(スクピン)・崔(チェ)氏という役がハン・ヒョジュにピッタリだった。ドラマでは“トンイ”と呼ばれているが、19代王・粛宗(スクチョン)に愛された女性で21代王・英祖(ヨンジョ)の母でもあった。しかし、史実では不明な点が多かった。
ということは、ハン・ヒョジュが淑嬪・崔氏の人物像を世に知らしめる機会を得たとも言える。それは、女優としてやり甲斐があることだった。
ハン・ヒョジュ自身は『トンイ』に主演することが決まってから、すぐに淑嬪・崔氏について調べ始めた。しかし、資料が本当に少なかった。インターネットを見てもわずかしか出てこない。それだけに、『トンイ』というドラマでは、監督や脚本家が“こういう人物だったのだろう”という想像で作る部分が多かった。
歴史的に淑嬪・崔氏の影が薄いのは、同時代を生きた張禧嬪(チャン・ヒビン)があまりにも有名だったことも関係していた。実際、張禧嬪は朝鮮王朝の悪女の代表格の女性。「粛宗が愛した女性」というと、誰もが真っ先に張禧嬪を思い浮かべるほどだ。
逆に淑嬪・崔氏の場合は、「果たして誰?」と思われてしまう秘密めいた存在だった。そんな隠れた女性をハン・ヒョジュは誠実に演じて知名度を大幅に向上させた。それほど人気ドラマの影響力は大きいのだが、“天然美女”のハン・ヒョジュが魂を込めて演じただけに、淑嬪・崔氏に対する関心度は一気にアップした。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
前へ
次へ