2020年代前半の時代劇の傑作として今も評価が高い『赤い袖先』(2021~2022年)。2PMジュノとイ・セヨンが主演して、美しい宮廷ロマンスを見せてくれた。
ジュノが扮するのは、22代王・正祖(チョンジョ)ことイ・サンである。物語は、彼が即位する前の若き日々に焦点を当て、後継者としての重責を背負いながら、深い覚悟と燃える情熱を抱いて奮闘する姿が描かれていく。
物語の中心に据えられているのは、ソン・ドギムという宮女との“許されざる愛”である。この愛は、決して成就してはならぬ運命にあった。
王位継承者としての宿命を背負ったイ・サンにとって、一介の宮女との恋は朝廷にとっても世間にとっても容認されるはずのないものであった。しかし、情熱の炎は禁じられた道をも照らし出し、イ・サンの心は抗いようもなくソン・ドギムに引き寄せられていく。
己の立場も忘れ、ただひとりの女性に心を預けてしまう、その揺らぎと深い愛の表現が物語を抒情的に彩っていた。
ソン・ドギムを演じるのが比類なき表現力を持つ女優イ・セヨン。彼女は『赤い袖先』で身分の壁を越えようとする宮女を演じている。
高貴な愛と庶民の恋、そのはざまで揺れる女心を、抒情的かつ情熱的に体現してみせる。その演技には、これまでとはまた違う新しい表現力がにじみ出ており、物語全体に豊かな深みと感動をもたらしてくれた。
なお、イ・セヨンが演じるソン・ドギムのモデルとなったのは、実在した宜嬪(ウィビン)・成(ソン)氏という女性である。この人物は、過去の名作ドラマ『イ・サン』ではソンヨンの名で登場し、ハン・ジミンが気品ある佇まいで演じていた。
傑作時代劇のキャラクターになっていた女性なので、当然ながらイ・セヨンもかなり意識して演じたが、彼女なりに新しいイメージの宜嬪・成氏を作り上げてくれた。それはまさに“真夏の夜の夢”のような艶めかしいキャラクターだった。イ・セヨンは本当に華がある女優である。
文=大地 康
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