朝鮮王朝19代王の粛宗(スクチョン)がトンイ(淑嬪・崔氏[スクピン・チェシ])に初めて会ったのは、史実では張禧嬪が1689年5月に王妃になった後である。これは動かせない歴史的事実だ。
しかし、時代劇『トンイ』では、トンイが子供の頃に若き張禧嬪と会っており、成人して宮中に入った後もすぐに面会している。ドラマでは史実よりもずっと早く二人が知り合いだったという設定だった。
もっと明確に言うと、『トンイ』では張禧嬪(この時点での役名は「チャン尚宮」)とトンイが王宮内で初めて話を交わす場面(第7話)が重要なので、それを振り返ってみよう。
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張禧嬪はトンイの働きによって窮地を脱し、そのお礼に彼女を自室に招き入れた。その席で、張禧嬪はトンイを頼もしく見つめていた。
しかし、トンイは粛宗の寵愛を受ける張禧嬪があまりにまぶしく見え、その前で妙にオドオドしていた。
張禧嬪が口を開いた。
「澄んでいる。瞳の輝きがいい」
「エッ?」
「奴婢(ぬひ)とは思えないような才気と気品がある」
「めっそうもないことです。なぜ私のような者にそういうお言葉をくださるのですか」
トンイは恐縮したままだ。ここで張禧嬪が有名な詩の一節を暗唱し、「続きの詩を詠んでみよ」とトンイに呼びかける。謙遜しながらトンイがその続きを詠むと、張禧嬪はにっこり笑って言った。
「やっぱり私の目は正しかった。文字が読めると思っていた」
以上のように、ドラマの『トンイ』では張禧嬪とトンイの関係が当初はとても良好だった。
それは、人間の付き合いが変わっていくことを誇張するドラマ的な手法の一つである。仮に二人の主人公クラスの配役がいたとして、その関係が最初から“険悪”では物語が単調になりやすいが、“良好”から“険悪”への振幅を大きくすれば、それだけ伏線を物語の中に入れることが可能になる。その伏線こそが話を面白くする重要な要素なのだ。
トンイに興味を持った張禧嬪と、その張禧嬪に憧れるトンイ。この前提がドラマの『トンイ』の序盤を彩っていて、その後に展開される両者の対決の伏線になっていた。
史実とはかなり違っているが、ドラマがより面白くなるに違いない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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