Netflixで配信中の韓国ドラマ『エスクワイア:弁護士を夢見る弁護士たち』は、硬質な法廷ドラマの枠に収まりきらない深い人間ドラマである。
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舞台は大手法律事務所ユルリムの訴訟チーム。そこに集う若き弁護士たちが、キャリアと理想のはざまで揺れ動きながら、それぞれの正義と生き方を模索していく。
1つの事件を通じて描かれるのは、裁判に勝つことよりも人間としての成長と向き合い、葛藤を乗り越えていく姿である。視聴者の心をつかむのは、まさにそのリアルな息づかいだ。
そんな群像劇の中で、ひときわ存在感を放つのが、ユルリム訴訟チームのパートナー弁護士でありチーム長を務めるユン・ソクフンだ。
冷徹なロジックと独自の視点で法廷を支配する彼は、まさに“現代の切れ者”。常識にとらわれない斬新な論理展開で注目を集める一方、私生活では一切の無駄を排した静謐な佇まいを保ち、人付き合いも必要最低限だが、その冷たさの奥には人を深く理解し、癒やす力がある。
味方には頼もしい支えを与えるが、敵とみなせば冷酷に急所を突く鋭さも。そんな彼がヒロインのヒョミンと共に訴訟に取り組む中で、感情の波に揺さぶられ、心を開き、変わり始める。冷たく見える彼の変化が、ドラマ全体に繊細な温度を与えている。
このユン・ソクフンを演じているのがイ・ジヌクだ。端正な顔立ちと低く響く声、そしてどこか影を感じさせる雰囲気で、多くの女性ファンを惹きつけてきた。
2004年から俳優として本格的に活動を始めた彼は、『恋愛時代~alone in love~』で名を広めた彼は、その後、犯罪スリラー『ボイス2』『ボイス3』で繊細かつ迫力ある演技を見せ、演技派俳優としての地位を確立した。
作品ごとにまったく異なる表情を見せるのが、イ・ジヌクという俳優の真骨頂である。そんなイ・ジヌクの出演作の中で、忘れたはいけないのが『Sweet Home-俺と世界の絶望-』シリーズと『イカゲーム』だろう。
『Sweet Home-俺と世界の絶望-』シリーズでは、シーズン1ではグリーンホームの謎の男、シーズン2では元殺人斡旋業者、シーズン3ではピョン・サンウクの身体を乗っ取ったナム・サンウォンを演じている。
『イカゲーム』ではシーズン2と3に出演しており、イカゲーム参加者246番で画家のパク・ギョンシクに扮していた。
今回の『エスクワイア:弁護士を夢見る弁護士たち』では、感情を表に出さないソクフンという難役を、抑制された芝居で丁寧に描き出しており、彼の演技力の成熟を感じさせる。
派手さはなくとも、視線やわずかな表情の動きに宿る説得力が、観る者の心に静かに残る。
キャリア20年を超えてなお、常に新たな挑戦を続けるイ・ジヌク。その柔らかな物腰の奥にある強い芯と、成熟した男の余裕。彼の演じるソクフンを通して、私たちは冷たさの裏にある優しさや孤独の中の強さを知ることができる。
『エスクワイア:弁護士を夢見る弁護士たち』は、そんなイ・ジヌクの魅力を再確認する絶好の作品であり、ドラマとしても人間としても深く心に沁みる物語となっている。
文=大地 康
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