Netflixで配信中のドラマ『トリガー』は、銃規制が厳格な韓国社会を舞台に、突如として銃が日常へと浸食していく異常事態を描いた衝撃作である。
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物語は、日々の暮らしに溶け込んだ宅配便が、知らぬ間に違法銃器を各家庭へと運び込むという現代社会の盲点を突く設定から始まる。銃とは無縁であるはずの都市に、乾いた銃声が静かに、しかし確実に広がっていく様子は、観る者に言いようのない恐怖と警鐘を鳴らす。
単なるサスペンスの枠を超えた本作は、もしもの暴力が社会に入り込んだとき、人々はどう向き合うのかを問う、痛切な社会批評である。
この異様な状況の中、物語の核心にいるのがキル・ヘヨン演じる母親オ・ギョンスクである。彼女は、過酷な労働環境が原因で命を落とした息子の死をきっかけに、声なき怒りを抱えて社会に立ち向かう存在だ。
デモの最前線に立ち、真実を訴える彼女の姿は、個人の悲劇を超えて、銃社会と化した韓国そのものを問い直す象徴として描かれている。
キル・ヘヨンの演技は、怒りや悲しみ、絶望と希望のはざまに揺れる母親の内面を丹念に掘り下げ、見る者の心を深く揺さぶる。
キル・ヘヨンは、韓国ドラマ界において名バイプレイヤーとして確固たる地位を築いてきた女優である。『トリガー』のみならず、『ロースクール』ではロースクール院長で元判事のオ・ジョンヒ、『静かなる海』では宇宙航空局のチェ局長を演じた。
様々なキャラクターを演じ分ける柔軟さを持つ。決して派手な存在ではないが、その静けさの中に宿る強靭な存在感は、どの作品でも観る者に深い印象を残す。
『トリガー』でのキル・ヘヨンは、そうした長年の蓄積が光る圧巻の演技を見せる。息子を失った1人の母であると同時に、社会に抗う市民としての顔を持ち、彼女の歩みはドラマの軸そのものを貫いている。
現代社会が抱える不条理に対し、黙って耐えるのではなく、行動をもって訴えるその姿は、多くの視聴者にとって共鳴と覚醒をもたらす存在となるだろう。
文=大地 康
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