“人はなぜ銃を手にするのか?”という問いが鋭く胸に突き刺さるドラマ『トリガー』は、銃社会とは縁遠いはずの韓国を舞台に、正体不明の違法銃器が地下から静かに広がっていく不穏な世界を描く。音のない日常を突然貫く銃声、その一発がすべてを変えてしまう緊張と葛藤のヒューマンスリラーである。
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物語の中心には、異なる過去と欲望を背負った2人の男がいる。彼らは、ある出来事をきっかけに、やがて“銃を手に取る”という決断を迫られる。その引き金の瞬間に交錯するのは、正義か、復讐か、それとも壊れそうな希望か。派手なアクションよりも、人間の奥底に潜む闇や願いを静かに、しかし確かに浮き彫りにするのが、この作品の真髄だ。
ただの銃撃ドラマではない。登場人物たちの心の奥に潜むトリガー(引き金)が、どんな瞬間に引かれるのか、その描写が観る者の心にじわりと染み入る。視覚効果や演出の巧みさだけでなく、心理的な緊張感が織りなす深い余韻が、作品全体に影のように漂っている。
そんな重厚な物語の中で、静かに圧倒的な存在感を放つのが、ベテラン俳優キム・ウォネである。
彼が演じるのは、京仁西部警察署トミョン派出所長チョ・ヒョンシクは、冷静沈着に見える一方で、内面に複雑な葛藤を抱えたこのキャラクターに、キム・ウォネは驚くほど自然に命を吹き込む。
キム・ウォネといえば、名脇役の呼び声高い演技職人。長い下積みを経て、数多くのドラマや映画で存在感を示してきた。
『トラウマコード』のハングク大学病院企画調整室長ホン・ジェフン、『離婚弁護士シン・ソンハン』のラジオ局長チャン・ジョノ、『エージェントなお仕事』のマネジメント会社スターメディア代表チョ・ギボンなど、癖のある役柄を巧みに演じ分け、幅広い世代から支持を集めている。
『トリガー』での彼は、社会の秩序を守ろうとする責任感と、個人として抱える心の傷との間で揺れる男を演じている。
その眼差し1つ、ため息1つが台詞以上に語る。派手さではなく、リアルさで心を打つ。それこそが、キム・ウォネの真骨頂である。
銃声が鳴り響くその先に、人は何を見つけるのか。
『トリガー』は、ただのアクションではなく、心の奥にひそむ“引き金”にそっと触れてくるようなドラマだ。人間の弱さ、強さ、そしてどうしようもない哀しみまでも丁寧に描き出すこの作品は、確実に観る者の心を撃ち抜く。
銃の音よりも重い心の音に、きっとあなたも耳を澄ませたくなるはずだ。
文=大地 康
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