Netflixで大好評を博した『暴君のシェフ』は、内容がコミカルなファンタジー時代劇となっていた。主人公ヨン・ジヨンを演じたイム・ユナは見事なコメディエンヌぶりを見せていたし、映像的にもキラキラしたファンタジーが多かった。
そういう意味では、創作的な要素が強い時代劇となっていたが、実は歴史の描き方がかなり史実に忠実だった。
イ・ホン(演者イ・チェミン)は暴君として悪評が多い燕山君がモデルになっていて、廃位に至る経歴が史実どおりに生かされていた。さらに、インジュ大王大妃(演者ソ・イスク)とチャヒョン大妃(演者シン・ウンジョン)は、実在の人物のイメージをうまく取り入れていた。
具体的に言うと、インジュ大王大妃は燕山君の生母を廃妃および死罪にした仁粋(インス)大妃だったし、チャヒョン大妃は燕山君の母が廃妃になったあとに王妃に昇格した慈順(チャスン)大妃と人物像がそっくりだった。
必然的に彼女が産んだ晋城大君(チンソンデグン)が、『暴君のシェフ』の中ではチンミョン大君としてイ・ホンの後の国王になっていく。このあたりも、史実の流れをうまく取り入れていた。
実際、『暴君のシェフ』の終盤に描かれた大事件は歴史上で1506年の出来事であり、結果的に燕山君は廃位になって江華島(カンファド)に流罪になってしまう。
その数ヶ月後に病死するのだが、その歴史を知っているヨン・ジヨンは「このままでは殿下が死んでしまう」という危機感を強く持っていた。この場面も『暴君のシェフ』が細かく史実を取り入れていることの証だった。
ただし、チェサン大君(演者チェ・グィファ)は歴史上のモデルが見当たらず、典型的な架空の人物になっていた。
このようなキャラを巧みに配置しながら、歴史上の人物(国王イ・ホン、インジュ大王大妃、チャヒョン大妃、チンミョン大君)に光を当てたのが『暴君のシェフ』の妙味だった。その点にとても感心した。
〔作品情報〕出演者(役名)
イム・ユナ(ヨン・ジヨン/3つ星レストランヘッドシェフ)
イ・チェミン(イ・ホン/国王)
チェ・グィファ(チェサン大君/イ・ホンの叔父)
ソ・イスク(インジュ大王大妃/イ・ホンの祖母)
オ・ウィシク(イム・ソンジェ/都承旨)
カン・ハンナ(カン・モクジュ/イ・ホンの側室)
チャヒョン大妃(シン・ウンジョン)
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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