朝鮮王朝には27人の国王がいたが、間違いなく韓国時代劇で一番多く登場する国王が英祖(ヨンジョ)だ。それは、彼の人生そのものにドラマ性があるからだ。
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庶子から逆転で王位を手にした波乱の人生、巧妙な駆け引きで統治を成功させた政治力、そして、息子の思悼(サド)世子を餓死させるという悲劇を招いた性格……英祖が持っていた能力と矛盾と葛藤が時代劇において尽きることのない魅力的なテーマとなり、彼は繰り返し登場人物として描かれてきた。
特に有名な時代劇を挙げてみよう。
●『イ・サン』(2007~2008年)
英祖を演じたのは重鎮俳優のイ・スンジェ。孫であるイ・サンを愛しながらも、彼の適性を冷酷なまでに試し、時には激しく叱責する姿が印象的だ。
●『秘密の扉』(2014年)
「思悼世子事件」を描いた時代劇で、ハン・ソッキュが権力の象徴となっていた英祖を重厚に演じた。息子の思悼世子(イ・ジェフン)との苛烈な対立が物語の中心に据えられていた。
●『赤い袖先』(2021~2022年)
イ・ドクファが英祖を演じたが、ジュノ(2PM)が扮したイ・サンに対し、祖父として孫の成長を促していた。しかし、「そこまでやるか」と思えるほど高圧的な姿勢が多かった。
この他にも、『ヘチ』では若き日の英祖をチョン・イルが扮していた。
こうした時代劇で英祖の存在感は強烈だったが、史実ではどういう評価だったのだろうか。
彼は即位から52年間も朝鮮王朝を率いた。常に改革を掲げ、官僚制度を整備し、何よりも王権の強化を図った。さらには、民の疲弊を救おうと尽力した。名君であったことは間違いない。
しかしながら、時に冷酷であり、猜疑心に支配されることもあった。その結果が、「思悼世子事件」だ。その人間的な葛藤こそが英祖の本質であったかもしれない。
韓国時代劇で描かれる英祖を通して、視聴者は「権力を持つと人間はどう変わるのか」「果たして国王とは何者なのか」という問いを感じ取ることができるだろう。彼の治世は波乱に満ち、その長きにわたる激動の人生は、韓国時代劇にとって最適な題材であったことは確かだ。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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