Netflixで快進撃を続けている『暴君のシェフ』。パリで三ッ星を獲得しているレストランのヘッドシェフを務めるヨン・ジヨン(演者イム・ユナ)が、朝鮮王朝時代にタイムスリップして暴君イ・ホン(演者イ・チェミン)の料理番になる、という奇想天外な話だ。
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しかし、歴史を描いている部分はとても重厚である。イ・ホンは悪名高い燕山君(ヨンサングン)のイメージを彷彿させるし、インジュ大王大妃(演者ソ・イスク)は仁粋(インス)大妃をモデルにしている。
こういう展開の中で果たしてチェサン大君(演者チェ・グィファ)はどういう立ち位置なのだろうか。この人物を史実に例えるとすると、果たして誰になるのか。
そもそもチェサン大君はイ・ホンの叔父である。もっとわかりやすく言えば、イ・ホンの父の異母弟なのだ。彼は自分の本心を隠すためにあえて愚か者を装っている。周囲の重臣たちからはいつも嘲笑されており、大事なところでミスばかり繰り返している。しかし、それは仮の姿だ。
彼はイ・ホンの側室のカン・モクジュ(演者カン・ハンナ)を手先として使っている。カン・モクジュはチェサン大君の腹心だ。彼女は密偵として王宮の中の情報をチェサン大君に伝えている。その情報を利用しながら彼は様々な策略をめぐらしているのだ。
究極の目的はイ・ホンを追い出して自分が国王になること。そのために用意周到な準備を進めている。それが周囲に露見しないように、あえて愚か者のフリをしている。
こういう人物を史実で燕山君の周りで探すと、自然と晋城大君(チンソンデグン)が浮かび上がってくる。
燕山君の異母弟であった晋城大君は、自分からあえて国王となろうとしたわけではない。そんな気持ちは毛頭なかった。極端に燕山君を恐れていたからだ。異母兄に殺されるのではないかと常に怯えていた。
それゆえ、自分が有能であることを絶対に燕山君にバレないようにしていた。もし露見したら必ず排除されていた。このように晋城大君が無能であることを装っていたという意味では、『暴君のシェフ』のチェサン大君と似ている。
実際、史実の彼は国王になるという気持ちはなかったが、結果的に周囲がお膳立てしてくれて国王になっている。燕山君を追放した官僚たちが、次の王は絶対に晋城大君だということで擁立したのだ。
こうした事実を『暴君のシェフ』を見ていて念頭に入れておく必要があり、様々な状況を考えるとチェサン大君はまさに晋城大君だと言えるのかもしれない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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