時代劇の制作には、現代劇とは違う制約がある。その一つが、「歴史を歪めている」という視聴者の批判に対応しなければならないことだ。
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歴史好きな人が多い韓国では、史実と違う描き方をすると、すぐに批判が殺到してくる。特に、家柄に誇りを持っている子孫たちが、先祖を悪人に描かれるとテレビ局に苦情を寄せてくる。
それも制作陣を悩ませる難題であり、「子孫の怒りを鎮めるのがいかに大変だったか」ということをテレビ局のプロデューサーから直接聞いた経験がある。
このように、時代劇の制作上の制約という現実問題も、史実一辺倒より架空の物語が増えるきっかけになったかもしれない。
そうした中で、主人公が時空を越えてタイムスリップするという時代劇が立て続けに作られたのが2012年であった。
日本の人気ドラマをリメイクした『Dr.JIN』、ソウルの美容整形外科医が高麗時代にタイムスリップしてしまう『シンイ―信義―』、朝鮮王朝の世子(セジャ)が現代の韓国に家臣と一緒にタイムスリップする『屋根部屋のプリンス』など。まさに、「タイムスリップ時代劇」が一つのジャンルを形成するほどであった。
確かに、設定が奇抜なので多彩なキャラクターでドラマを盛り上げるができる。以後も、タイムスリップ時代劇は根強い人気を誇り、2016年には『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』が制作された。
ヒロインのIU(アイユー)が現代から高麗時代にタイムスリップして皇室で暮らす女性に成り代わるという物語で、多くのイケメン皇子とラブロマンスを繰り広げた。
さらに、究極的に不思議な展開になったのが『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』(2017年)だった。高麗時代の武将が主君に裏切られて殺されそうになるが、胸に剣を刺したまま現代にまで生きているのだ。そんな武将をコン・ユがファンタジックに演じていた。
直近でタイムスリップ時代劇の傑作といえば、『哲仁王后』(2020―2021年)だ。大統領官邸のシェフがこともあろうに朝鮮王朝末期の王妃に魂が乗り移ってしまうという物語で、ヒロインに扮したシン・ヘソンの怪演ぶりが評判になった。
一方、設定が奇抜といえば、男装・女装を取り入れた時代劇も人気がある。
ヒロインが男装する設定のドラマは『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010年)や『奇皇后』(2013年)や『雲が描いた月明り』(2016年)があり、男性主人公が女装するのは『ノクドゥ伝~花に降る月明り~』(2019年)がある。
どれもが傑作という評価があり、韓国時代劇でも特にユニークなジャンルとなっている。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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