正直言って、『イカゲーム』はあまり見たくなかった。人がたくさん死ぬドラマは苦手だし、暴力シーンもできれば見たくない。
しかし、考えが変わった。パリで『イカゲーム』のイベントにすごい行列ができている映像を見て、「好き嫌いの問題じゃない。見なくてはならない」と真剣に思った。
そんなわけで、恐る恐る見始めたのだが、それまで見なかったことを後悔した。
「もっと早く見ておくべきだった」
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率直にそう思った。
実際、想像以上にたくさん人が殺されていくし、えげつない暴力シーンも多かった。それでも「次回が早く見たい」と思えるようになったのは、出演している俳優陣のレベルがとても高くてキャラクターに引き込まれたし、生死の間際を描いた時の人間味あふれる場面に心から感動したからだった。
とはいえ、前提になっているのは酷な話ばかりだ。「よくもまあ」と思えるほど人生のどん底にあえいでいる400人を一堂に集めて、お互いに殺し合いまでさせるのだから。
そんなシチュエーションばかりのストーリーの中で、それでも人間を信じられる場面が要所にあったことで心が救われた。
一例を挙げよう。
相手を殺さなければ自分が殺されるというゲームの中で、チョン・ホヨンが演じたセビョクと、イ・ユミが扮したジヨンの女性同士の触れ合いがとても良かった。
お互いに凄まじい境遇の中で育ってきたのだが、それでも身近な人をいたわる優しさだけはなくしていなかった。そんな2人の穏やかな会話シーンが胸を打つ。彼女たちは最後まで人間を嫌っていなかった。それこそが形を変えた人間賛歌だった。
こういう場面が随所に織り込まれて、究極の人間ドラマになっている点が『イカゲーム』のとっておきの持ち味だと思える。
世界80カ国以上でネットフリックスのランキング1位になるほどの普遍性を備えている『イカゲーム』。韓国ドラマの底力を如実に示したという意味でも、今年、世界基準でナンバーワンの話題性を持ったドラマだった。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
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