『太陽を抱く月』を制作したキム・ドフン監督は、ドラマで特に大事に思っていたことをこう強調している。
「演出する際に大事だったのは、現実と非現実の境界線をぼかすことでした」
これは、どういう意味かと言うと、たとえ架空の物語だとしても正統派の本格時代劇をめざすということだった。
その際にキム・ドフン監督が、主役のキム・スヒョンとハン・ガインと同じように重視したのが、宮中で陰謀をめぐらす大妃(テビ)の役だった。
この役を際立たせるためにキム・ドフン監督は、なんとしても名優のキム・ヨンエの起用にこだわった。
彼女は、ハ・ジウォンが主演した『ファン・ジニ』で厳しい師匠の役を演じて絶賛されたベテラン女優だ。
キム・ドフン監督は三顧の礼でキム・ヨンエのキャスティングを実現させた。実際に彼女は大妃の役にピッタリで、出てくるだけで“何か起こるぞ”という不気味さを漂わせていた(キム・ヨンエは惜しまれながら2017年に亡くなっている)。
この大妃は架空の人物だが、史実では11代王・中宗(チュンジョン)の三番目の正室だった文定(ムンジョン)王后にそっくりだ。
歴史的に悪名が高いのだが、文定王后も自分の息子を王にするために策略をめぐらし、朝鮮王朝を大いに混乱させている。
結局、息子が13代王・明宗(ミョンジョン)として即位して、文定王后も強権を持った大妃になっている。
そして、その史実を巧みに使ってキム・ドフン監督は『太陽を抱く月』を本格時代劇に仕上げていったに違いない。
文=康 熙奉(カン・ヒボン)
前へ
次へ