「抱腹絶倒」とは、このドラマのことかもしれない。とにかく、時代劇の概念を突き崩すような設定にワクワクしてしまう。物語は、韓国の大統領官邸で働く天才的なシェフが仲間に裏切られて刑事に追われる場面から始まる。
【写真】『私のヘリへ』で1人2役のシン・ヘソン、完璧な演じ分けに高評価!
シェフが逃げる途上でプールに落下してしまい、なんと朝鮮王朝時代の王宮にまぎれこみ、魂そのものが当時の王妃キム・ソヨンのからだにすっぽりと宿ってしまう。このキム・ソヨンというのは、歴史的に哲仁(チョリン)王后に該当している。
しかも、ドラマでは「タイムスリップ」と「男女の魂の入れ替え」という大ネタが重なって入っている。なんとも贅沢だ(笑)。
その結果、ワケもなく王宮のあちこちを逃げ回る王妃と追いかける女官たちのドタバタぶりが展開される。ここで、お腹がよじれるほど笑いの渦となる。
キム・ソヨンを演じるシン・ヘソンは、「視聴率女王」の異名を持つほどの人気女優。そんな彼女が『哲仁王后~俺がクイーン!?~』では現代韓国の男性の魂が入り込んだ王妃を怪演している。
王妃といえば朝鮮王朝のファーストレディ。それなのに、言動がまるで品の悪い男だ。そのギャップが面白い。なんといっても、がさつな男の魂を受け継いだヒロインの演技ぶりが圧巻だった。
一方、王妃の夫となっているのが哲宗(チョルジョン)であり、『愛の不時着』で知名度を一気に高めたキム・ジョンヒョンが扮している。
なお、主役キャストとして哲宗を取り上げているのが斬新だ。彼は今までの時代劇でほとんど取り上げられたことがなかったからだ。歴史的には、田舎で農業をしていて漢字すらまともに読めなかった青年が急に国王に任命された、というエピソードの持ち主である。
そういう人物像が『哲仁王后~俺がクイーン!?~』でも巧みに取り入れられている。そして、キム・ジョンヒョンが立派な国王になろうとする姿を好演していて、大いにドラマを盛り上げていた。
それにしても、『哲仁王后~俺がクイーン!?~』は全編を通してヒロインとなる王妃の存在感が強烈だ。しかも、哲宗、大妃、側室、女官たちが王宮の中で彼女に振り回される様子が存分に描かれていて、ラブコメ時代劇の傑作になっている。
次から次へと意表をつく展開のオンパレードで、最後まで目が離せないストーリーが秀逸だった。
〔『哲仁王后~俺がクイーン!?~』ドラマ概要〕
制作/tvN 、2020-2021年
配信/Netflix、Hulu
全話数/20
演出/ユン・ソンシク、チャン・ヤンホ
脚本/パク・ゲオク、チェ・アイル
出演者(演じた役名)/シン・ヘソン(キム・ソヨン/哲仁王后)、キム・ジョンヒョン(哲宗)、ペ・ジョンオク(純元王后)、キム・テウ(キム・ジャグン)
文=康 熙奉(カン ヒボン)
作家。1954年東京・向島で生まれる。韓国の歴史・文化・韓流や日韓関係を描いた著作が多い。『知れば知るほど面白い 朝鮮王朝の歴史と人物』を含めた朝鮮王朝三部作は70万部を超えるベストセラーとなった。最新刊は『朝鮮王朝「背徳の王宮」』。
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