『奇皇后』という壮大な歴史ドラマを語るとき、どうしてもスンニャン(ハ・ジウォン)やタファン(チ・チャンウク)、ワン・ユ(チュ・ジンモ)に視線が集まりがちだ。
しかし、この三角関係の外側で、物語に独特の緊張感と影を落としていた人物がいる。それが、キム・ジョンヒョンが演じたタンギセだ。
『奇皇后』は、貢女として元に送られた女性が、やがて皇后にまで上り詰めるという実在の人物をモチーフにした時代劇だ。舞台は14世紀の高麗末期。政治闘争と愛憎が複雑に絡み合う物語の中で、タンギセは決して主役ではないが、強烈な存在感を放っていた。
タンギセは元の武将であり、父ヨンチョル(チョン・グクファン)を盲目的に崇拝する一方、皇太子タファンを軽視する人物として描かれる。性格は残忍で、スンニャンの母を殺害するという冷酷な一面も持つ。物語序盤では、典型的な「悪役」として視聴者の前に立ちはだかる存在だった。
しかし、キム・ジョンヒョン自身は、このタンギセを単なる悪人として捉えていなかった。彼は「状況によって悪役になってしまった人物」であり、「心の根まで腐った男ではない」と分析している。
実際、ドラマの中では、縄につながれ元へ連行されるスンニャンを案じて馬を止めるなど、ふとした瞬間に人間味をのぞかせる場面もあった。
特にキム・ジョンヒョンが意識したのは、タンギセがスンニャンに向ける感情だったという。叶わぬ思いでありながらも、そこにある一途さや切なさこそが、タンギセという人物の魅力だと感じていたのだ。
その視点で見ると、『奇皇后』はスンニャン、タファン、ワン・ユの三角関係に、タンギセを加えた“四角関係”としても楽しめる作品になる。
一方で、キム・ジョンヒョンには心残りもあった。劇中では父ヨンチョルから完全に信頼されているわけではなく、武将としての力量や器の大きさを十分に表現しきれなかった点が悔しかったという。それだけ彼が、タンギセという役に深く入り込み、真剣に向き合っていた証でもある。
キム・ジョンヒョンは『奇皇后』以前にも、『大祚榮』『善徳女王』『広開土太王』といった名だたる時代劇で印象的な演技を見せてきた俳優だ。その積み重ねがあったからこそ、『奇皇后』でもタンギセという難しい役柄を最後まで堂々と演じ切ることができたのだろう。
もちろん、ハ・ジウォンとチ・チャンウクによる主役カップルの熱演は作品の大きな軸だった。
しかし、物語に深みと陰影を与えたという点で、キム・ジョンヒョン演じるタンギセの存在もまた欠かせない。彼の演技があったからこそ、『奇皇后』は単なる成功譚ではなく、より複雑で奥行きのある歴史ドラマとして完成したのである。
構成=韓ドラLIFE編集部
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