欲望が人を狂わせる瞬間を、あなたは見たことがあるだろうか。7月16日からDisney+の「スター」で独占配信がスタートした『パイン ならず者たち』は、1970年代の韓国を舞台に、1つの財宝が人々の人生を根こそぎ変えていくさまを描いたクライム・アクションである。
【関連】リュ・スンリョンが体現する“静かなる野望”…Disney+『パイン ならず者たち』で新たな代表作へ
物語の発端は、韓国沖に眠る沈没船とそこに隠された莫大な財宝。海の底にあるその獲物を巡り、平凡とは程遠い人間たちが集まる。彼らは皆、社会の片隅で生きるならず者たちだが、ただの無法者ではない。それぞれが心に葛藤と野心、あるいは過去の傷を抱えながら、騙し、利用し、裏切り、時に手を取り合う。
中心人物となるオ・グァンソク(演者リュ・スンリョン)は、理知的で行動力があり、冷静な計算もできるが、金のためなら手段を選ばない危うさを持ち合わせている。彼は甥のオ・ヒドン(演者ヤン・セジョン)と共に、海底に眠る財宝に賭ける。
ヒドンは、幼い頃から叔父とともに裏社会で生き抜いてきた青年で、外見はクールでも内には激情を秘めている。2人は血縁という絆で結ばれているが、金の誘惑がその絆さえも試していく。
もう1人の重要人物が、ヤン・ジョンスク(演者イム・スジョン)だ。一見、企業の会長夫人として華やかな人生を歩む彼女だが、実際には権力と富に対して強い執着を持つ野心家である。
状況を冷静に読みながら他者を巧みに操るカリスマ的存在であり、ならず者たちの計画に深く関与していく。彼女の動向ひとつで、物語の均衡が大きく崩れる危うさがある。
原作は、『ミセン-未生-』などで知られるユン・テホによるウェブ漫画である。緻密な人間描写と社会の裏側をえぐり出すような筆致が特徴で、本作でもその魅力は健在だ。
映像化にあたっては、当時の韓国の空気感を再現しつつ、緊張感と躍動感を併せ持った演出が際立つ。登場人物たちは見た目は田舎者に見えるが、その行動力と狡猾さは都市の犯罪者顔負けであり、欲望に忠実な生きる力が描かれている。
海底の財宝は、単なる富を象徴するものではない。それは登場人物たちが失った何か、名誉、家族、自由、過去の贖罪を取り戻すための希望であり、呪いでもある。誰が最後に手にするのか、それとも誰も手にできないのか。その結末を目撃する者は、きっと自分自身の欲望とも向き合うことになるだろう。
Disney+の「スター」ブランドにて独占配信中の『パイン ならず者たち』は、欲望と信念、裏切りと絆が交錯する緻密な人間ドラマに、ぜひ飛び込んでほしい。すべては、海の底から始まる。
文=大地 康
■【関連】Disney+の救世主なるか。超豪華キャストたちが『パイン ならず者たち』に込めた想い
前へ
次へ