『不滅の恋人』を見ていて、鬼のように恐ろしい女性がナギョムである。
主役のチン・セヨンが演じるソン・ジャヒョンの友人だったのだが、イ・ガンの妻になってから豹変した。イ・ガンが王になると、ソン・ジャヒョンを拷問にかけて命を奪おうとした。『不滅の恋人』では、イ・ガンを上回る悪役だと言える。
イ・ガンは史実で首陽大君(スヤンデグン)がモデルになっており、ナギョムは首陽大君の妻だった尹氏(ユンシ)がモデルだ。しかし、歴史上の尹氏はナギョムとは似ても似つかぬ女性だった。
そこで、尹氏の人物像を見てみよう。
尹氏は名家の出身だ。本来王室と縁談があったのは彼女の姉だったという。しかし、首陽大君の父だった世宗(セジョン)は、尹氏のほうが資質がもっと優れていると聞いて、彼女を息子の嫁に迎えた。
尹氏は10歳のとき、一つ上の首陽大君と婚礼を挙げ、王室の一員になった。彼女と首陽大君は仲が良かった。
当時、上流階級の男なら何人もの妾を持つのが一般的だったが、首陽大君はそうしなかった。それほど尹氏を愛していた。
首陽大君が30代になると、朝鮮王朝の政局は波乱の中に入った。尹氏はいつも夫の王座への野心を心配し、それに反対したという。
しかし、夫が覚悟を決めると、彼女は態度を変えて夫を全面的に応援し、大いに励ました。
1455年、首陽大君は幼い甥を脅して王位を奪い、7 代王の世祖(セジョ)になった。それにしたがって彼の妻の尹氏も王妃となった。貞熹(チョンヒ)王后の誕生である。
以後、世祖が安定した王権を確保するまで、誰よりも世祖を助けた。
しかし、世祖と貞熹王后の夫婦は、自分たちの後を継ぐ大事な長男の懿敬(ウィギョン)世子を19歳で失った。
すべてが自分が犯した罪から来た悲劇だと信じた世祖は苦しんでいたという。それは貞熹王后も同じだった。
しかし、それだけで終わらなかった。夫の世祖がひどい皮膚病に苦しんだ末に息を引き取った後、王位を継いだ二男の睿宗(イェジョン)も、在位1 年2 カ月で急に世を去ってしまった。
息子を二人とも若くして亡くしたという意味で、貞熹王后は不幸な女性であった。
ただし、貞熹王后の長男の遺児であった二男が睿宗の後継者となった。それが9 代王の成宗(ソンジョン)であった。
こうして貞熹王后は王の祖母になった。
文=康 熙奉
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